2023/06/22 15:57
新茶シーズンも一段落し、当苑も落ち着きを取り戻しつつあります。時間も出来ましたので発売にあたり駆け足でしてしまった各お茶の解説を二代目がじっくりとしたいと思います。
かぐら
「かぐら」は当苑の顔と言って良いと思います。特徴は何と言っても在来種である事です。
かつては当地でも多数を占めていた在来種ですが、今ではとても少なくなってしまいました。
量も取れず芽も揃わない、現代の基準では優れた茶種とは言えないかもしれません。ですが、実生(種から植える事。現代はクローンの苗を植える品種物が一般)ならではの深い直根はその土地ならではの風味をそのままお届け出来ると思っています。
「かぐら」は温和で落ち着いた、派手さや特徴的な香味はありませんが飲む方のライフスタイルにそっと寄り添う様なお茶です。美味しいお菓子やお食事のお供として、淹れ方に気を使わずに気軽に飲んで頂ければ幸いです
神すゞしめ
「神すゞしめ」はかぐらと同じく在来種ですが、圃場が大きく離れています。元々の園主も異なり、持ち込まれた種子も大きく違うかもしれません。
在来種ならではの真っ直ぐ力強く伸びる根はその土地土地の風味をよく表すと考えております。「神すゞしめ」の植えられた圃場は礫質で小石がゴロゴロと多い土地です。ミネラルの影響や透水性の土壌がより清涼感のある爽やかな風味を産んでいるのではないかと思います。その魅力を最大限活かすべく、一晩生葉を置き軽く水分を飛ばした後に元祖製茶機メーカーの高林製粗揉機等で現代のセオリーとは違い形状を考慮せずに軽くさっぱりと揉み上げています。「かぐら」に比べその土壌の違いかシャープでほんのりミルキーな風味です。是非飲み比べていただきたいと思います。
まりし
「まりし」は個人育成品種である摩利支と言う品種です。濃厚な旨味と針の様な形状で高い評価を受ける品種ですが、それだけに留まらない可能性を常々感じておりました。ある方から、摩利支は精揉機を用いない「グリ茶」という製法に適正があると聞きました。グリ茶は製造工程の後半で強く揉まない事によって軽やかな風味に仕上がります。
果たしてグリ茶として製造した摩利支はうま味は軽快に、爽やかな香気とさっぱりとした後味に仕上がりました。針の様な形状、鮮やかな水色といった現代的な価値観に留まらない、本来の茶が持っていた多様な魅力を体現したお茶になったと思います。
やぶきた実生
「やぶきた実生」はかつて在来種から日本茶の王と言えるやぶきた種が普及していく際に、その人気もあって苗が入手困難な状況下でやぶきた園に生えた種を植えた物です。茶は自家交配しません。と言う事は花粉親はやぶきた種以外の物であり、おそらくはその当時当地で一般であった在来種、つまり当苑の「やぶきた実生」はやぶきた×在来種だと想定しています。やぶきたならではのまろやかな香味に在来種の多様さと力強さが合わさった、多面性のある面白いお茶になっていると思います。当苑らしく淹れ方に拘らず気軽に味わって頂けるお茶です。是非ご賞味下さい。
はるみどり
「はるみどり」は特徴ある香気が魅力のかなやみどりとまろやかな味の王道品種やぶきたとの交配種です。一般的には豊富なうま味と独特な香気が特徴の品種とされていますが、当苑の圃場特性と少ない肥料設計、軽く揉み上げる製造工程でくどさがない爽やかな味わいとフルーティな香りを感じさせるお茶に仕上がったと思います。とても鈴木茶苑らしいお茶になったと満足しています。
おくみどり
「おくみどり」は温和でまろやか、人を選ばない品種として知られています。
ついつい極端な香味を追いがちな当苑ですが、無理に特徴付けないスタンダードで場面を問わず美味しく飲んで頂けるお茶に仕上がっていると思います。
お茶はとても面白い物ですが、楽しむ上でついつい品種や栽培製造等考え過ぎてしまう面も有るかと思います。何も考えず頭を空っぽにして飲んで頂きたいお茶です。スルスルと入っていく何杯も飲める飲み口だと思います。
いなぐち
「いなぐち」は個人育成品種です。
一般にはやぶきたを上回るうま味と好みが分かれる独特な香気が特徴とされています。
当苑に於いても一時期は一種独特な、スモーキーとかお肉の様なと形容される品種香を追い求めていました。改めてこの品種の持ち味は、育成者の方はこの茶種に何を見出したのか?と考え施肥や土壌改良、そして製造工程を追及した結果、独特な香気は軽やかに、味わいは前に出るものではないけれど確か主張する、とても自分好みなお茶になりました。